仙台地方裁判所 平成8年(わ)309号 判決 1996年11月01日
被告人
佐々木鐵筋工業株式会社
本店の所在地
宮城県登米郡豊里町内町浦二一番地の二
代表者の氏名
佐々木定三
代表者の住居
本店の所在地に同じ
被告人
佐々木定三
年齢
昭和一九年一二月二〇日生
本籍
宮城県登米郡豊里町内町浦二一番地の二
住居
右同
職業
会社役員
弁護人
村田知彦(被告人両名につき)
検察官
中尾貴之
主文
被告人佐々木定三を懲役一〇か月に、被告人佐々木鐵筋工業株式会社を罰金一六〇〇万円に処する。
被告人佐々木定三に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
被告人佐々木鐵筋工業株式会社(以下「被告会社」という)は、宮城県登米郡豊里町内町浦二一番地の二に本店を置き、鉄筋工事等を目的とする資本金二〇〇万円(平成六年九月三〇日に八〇〇万円に、同年一〇月一三日に三二〇〇万円に資本金額を変更)の株式会社である。被告人佐々木定三(以下「被告人佐々木」という)は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括してきたものであるが、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上げの一部等を除外し、架空外注費等を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、
第一 平成二年一〇月一日から平成三年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億三〇五九万五二七九円であったのに、平成三年一二月二日、宮城県登米郡迫町佐沼字沼向一〇九番地所在の所轄佐沼税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七二五七万三八六三円で、これに対する法人税額が二六二三万八七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額四七九九万六九〇〇円と右申告税額との差額二一七五万八二〇〇円を免れた。
第二 平成三年一〇月一日から平成四年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億四八五〇万三七四一円であったのに、平成四年一一月三〇日、前記佐沼税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が八九〇二万〇二三〇円で、これに対する法人税額が三一九五万九四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額五四二六万五五〇〇円と右申告税額との差額二二三〇万六一〇〇円を免れた。
第三 平成四年一〇月一日から平成五年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億五〇一三万六四七一円であったのに、平成五年一一月三〇日、前記佐沼税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が九六五八万八八三六円で、これに対する法人税額が三五二九万五五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額五五三七万六〇〇〇円と右申告税額との差額二〇〇八万〇五〇〇円を免れた。
(証拠)
犯罪事実全部について
一 被告人佐々木の公判供述
一 被告人佐々木の検察官調書二通(乙二、三)
一 栗原八恵子の検察官調書
一 検察事務官作成の捜査報告書及び電話聴取書
一 大蔵事務官作成の領置てん末書、「脱税額計算書説明資料」と題する書面、外注費調査書、簿外経費調査書、雑収入調査書、受取利息調査書、公租公課調査書、県民利子割調査書及び青色申告の承認の取消通知書(謄本)冒頭の事実について
一 被告人佐々木の検察官調書(乙一)
一 登記簿謄本
第一の犯罪事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲七)
一 確定申告書一綴(平成八年押第六〇号の一。甲三)
第二の犯罪事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲八)
一 確定申告書一綴(前同号の二。甲四)
第三の犯罪事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲九)
一 国税査察官作成の調査報告書(甲三三)
一 確定申告書一綴(前同号の三。甲五)
括弧内の甲乙の数は本件記録中の証拠等関係カードの検察官請求証拠番号である。
(法令の適用)
被告人佐々木の前記各行為はいずれも法人税法一五九条一項に該当する。定められている刑の中からいずれも懲役刑を選択する。これらの罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い第二の罪の刑に法定の加重をして処断する。その刑期の範囲内で被告人佐々木を懲役一〇か月に処する(求刑懲役一年)。
被告人佐々木に対し、刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
被告会社の前記各行為はいずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するところ、情状により同法一五九条二項を適用する。これらの罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪の罰金額を合算して処断する。その金額の範囲内で被告会社を罰金一六〇〇万円に処する(求刑罰金二〇〇〇万円)。
なお、刑法については、平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法による改正前の刑法を適用した。
(量刑の理由)
本件は、被告人佐々木が、自己の経営する被告会社の受注の変動による経営の不安定に備えるためなどの考えから、三事業年度にわたり被告会社の売上げを除外するなどして法人税合計六四〇〇万円余りを脱税したという事案である。その脱税額は多額であり、逋脱率も四〇パーセントに及び、脱税方法も巧みである。被告人佐々木は所得のある会社が果たすべき社会的責任を軽視していたと言わざるを得ず、被告人両名は厳しく非難されなければならない。
しかし、被告会社は、本件犯行の発覚により多額の納税を余儀なくされ、すでに修正申告をして納税を済ませていること、被告人佐々木はもともと地域社会に貢献してきており、このような事態に至って本件犯行を反省し、会社を経営する者としての社会的責任を深く自覚したと窺われること、被告人佐々木には罰金刑以外の前科がないことなどの事情も認められる。したがって、被告人両名を主文のとおりの刑に処した上、被告人佐々木についてはその刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。
(裁判官 秋葉康弘)